部下の離職を防ぐ「管理職の役割」とは?厚労省推奨の「ラインケア」と「職場環境改善」完全マニュアル

「優秀な若手が突然辞めてしまった」「チームの雰囲気が重く、メンタル不調者が出そうで不安だ」……。 人材獲得競争が激化し、採用難が続く現代において、現場を預かる管理職にとって管理職の役割の重要性はかつてないほど高まっています。給与アップや福利厚生の充実といった会社全体の施策も重要ですが、実は従業員が退職を決意する決定的なトリガーは、日々の業務における「上司との関わり」や「職場環境」にあることが、公的データからも明らかになっています。

厚生労働省のデータによれば、離職理由の多くは「労働条件」や「人間関係」に起因しており、これらは管理職のマネジメント次第で改善可能な領域です。本記事では、部下の離職を防ぐために管理職が果たすべき法的・実務的役割、そして明日から実践できる「ラインケア」と「職場環境改善」の具体的な手法を徹底解説します。

1. なぜあなたの部下は辞めたがるのか?現場で起きている「ボタンの掛け違い」

部下が退職願を持ってきたとき、その理由は「家庭の事情」や「キャリアアップ」といった当たり障りのないものではないでしょうか。しかし、厚生労働省の統計データからは、建前の裏にあるシビアな本音が浮かび上がってきます。効果的な対策を打つためには、まず離職の「真因」を客観的な数値から把握し、現場で起きている「管理職の認識」と「部下の不満」のズレ(ボタンの掛け違い)を修正する必要があります。

1-1. データで見る警告:「人間関係」と「労働時間」が2大要因である事実

厚生労働省が公表した「令和5年 雇用動向調査」の結果は、管理職にとって無視できない現実を突きつけています。

まず、若年層の離職理由です。19歳以下の男性において、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」とする回答は28.4%に達しており、他の年代と比較しても突出しています。20〜24歳男性でも11.4%、25〜29歳男性でも同様の傾向が見られ、若手社員が「プライベートの時間」や「休息」を確保できない環境に対して、極めて敏感に反応していることがわかります。かつてのような「若い頃は無理をしてでも働くものだ」という価値観を押し付けることは、即座に離職リスクを高める行為となります。

一方で、女性においては全年代を通じて「職場の人間関係が好ましくなかった」が離職理由の上位を占めています。さらに、「若年者雇用実態調査」によると、入社から3ヶ月未満で離職した新入社員の理由として最も多いのも「人間関係」(52.3%)でした。

つまり、データが示しているのは以下の事実です。

  1. 男性・若手層は、長時間労働や休日出勤などの「過重な労働負荷」に見切りをつけている。
  2. 女性・新規入社層は、職場での孤立や上司・同僚との「人間関係の摩擦」に耐えかねている。

これらは決して「個人の忍耐力」の問題ではなく、業務配分の偏りや職場内のコミュニケーション不全という、管理職が介入すべき「組織管理上の課題」なのです。

出典元:厚生労働省「令和5年雇用動向調査」

    厚生労働省「若年者雇用実態調査」

1-2. 叱咤激励は逆効果?現代の部下が求めている「心理的安全性」と「傾聴」

離職理由の根底にある「人間関係」の悩みを解消するために不可欠なのが、職場における「心理的安全性」の確保です。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」や関連資料においても、働きやすい職場づくり(いきいき職場づくり)の基盤として、意見を言いやすく、互いに尊重し合える環境の重要性が説かれています。

心理的安全性とは、部下が「このチームなら自分の意見を言っても否定されない」「ミスを報告しても不当に責められない」と確信できる状態を指します。心理的安全性が低い職場では、部下は「怒られないこと」を最優先に行動するため、以下のような悪循環に陥ります。

  • 報・連・相の遅滞: 悪い報告をすると叱責されるため、ギリギリまで隠す。
  • ミスの隠蔽: トラブルが小さいうちに対処できず、大事故に発展する。
  • メンタル不調: 常に緊張状態を強いられ、適応障害などを発症する。

現代の部下が上司に求めているのは、正論による説教や一方的な叱咤激励ではありません。「自分の話を否定せずに聴いてくれる」「困ったときに守ってくれる」という安心感です。管理職が「聴く姿勢(傾聴)」を持つことこそが、信頼関係の土台となり、最強の離職防止策となるのです。

2. 離職防止の最前線!管理職がすぐにやるべき「ラインケア」実践ガイド

では、具体的にどう行動すればよいのでしょうか。厚生労働省は、職場におけるメンタルヘルス対策として「4つのケア」を提唱しており、その中で管理監督者が担うのが「ラインケア」です。これは、部下の異変に気づき、相談に対応し、職場環境を改善するという、管理職に課せられた具体的かつ重要な役割です。ここでは、明日から使える実践的なテクニックを紹介します。

出典元:厚生労働省「職場における心の健康づくり」

2-1. 【観察】遅刻・ミス・無口…「いつもと違う」サインをキャッチするチェックポイント

ラインケアの核心は、部下のメンタル不調や離職の予兆である「いつもと違う」変化を早期に発見することです。厚生労働省の「こころの耳」等の資料では、注意すべきサインとして以下のような項目を挙げています。これらは単なる怠慢ではなく、SOSのサインかもしれません。

1. 勤怠の変化

  • 遅刻、早退が増える。急な休み(当日欠勤)が増える。
  • 無断欠勤がある(※極めて危険なサイン)。
  • 残業や休日出勤が理由なく増えている(家に帰りたくない、仕事が終わらない)。

2. 行動・能力の変化

  • 仕事の効率が急に落ちる、判断力が低下する。
  • これまでしなかったような単純ミスが増える。
  • 報告・連絡・相談が極端に減る、または避けるようになる。
  • 会議での発言がなくなる、あるいは逆に多弁になる。

3. 表情・態度・服装の変化

  • 表情が暗い、目線が合わない、元気がなさすぎる。
  • 逆に、不自然にハイテンションでイライラしている。
  • 服装が乱れている、不潔になる、化粧をしなくなる(身だしなみに構わなくなる)。
  • お酒やタバコの量が急激に増える。

これらのサインに気づくための唯一の方法は、平時から部下に関心を持ち、「いつもの様子」を把握しておくことです。朝の挨拶時の顔色、日報の書き方、雑談の反応など、定点観測を行う習慣をつけましょう。「最近、様子がおかしいな」と感じたら、それは放置してはいけないアラートです。

出典元:厚生労働省「職場における心の健康づくり」

2-2. 【傾聴】部下が相談したくなる「聴き方」と信頼関係の構築テクニック

部下の異変に気づいた際、あるいは部下から「少しお時間いいですか」と相談を持ちかけられた際、管理職に必要なのは「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」の技術です。これは、厚生労働省の管理監督者向け研修でも推奨されている技法で、単に耳を傾けるだけでなく、相手の気持ちを受け止め、共感的に聴く姿勢を指します。

具体的な傾聴のステップ

  1. 環境を整える: 立ち話ではなく、落ち着ける個室を確保する。スマホを伏せ、相手に体を向け、「時間は十分ある」という態度を示す。
  2. 話を遮らない: 部下が話している途中で「それは違う」「もっとこうすべきだ」と自分の意見を挟まないこと。沈黙が続いても、部下が言葉を探している時間だと捉え、待つことが重要です。
  3. 受容と共感(繰り返し): 「〇〇が辛かったんですね」「〇〇ということがあったんですね」と、部下の言葉を繰り返して確認します。同意できなくても、相手の感情を否定せずに「そう感じている事実」を受け入れることが信頼を生みます。
  4. 評価・批判を避ける: 「君にも悪いところがある」「甘えている」といった評価を下すのは厳禁です。相談の場は「説教の場」ではなく「受容の場」です。

上司が「解決策」を即座に出す必要はありません。「自分のことを分かってくれている」「話を聴いてもらえてスッキリした」と部下が感じるだけで、職場の心理的負担は大幅に軽減され、定着率は向上します。

2-3. 【連携】一人で抱え込まない!人事・産業医へのスムーズなつなぎ方

真面目な管理職ほど陥りやすい罠が、「部下の悩みは自分がすべて解決しなければならない」と抱え込んでしまうことです。しかし、ラインケアにおいて管理職に求められているのは、医師のような「診断」やカウンセラーのような「治療」ではありません。状況を把握し、適切な専門家へ「つなぐ(連携する)」ことが最大の役割です。

部下の不調が深刻そうだと感じた場合(例:死にたいと漏らす、食事が喉を通らない等)や、業務上の配慮(配置転換や休職)が必要だと判断した場合は、速やかに社内の人事労務担当者や産業医、保健師等の産業保健スタッフに相談・連携してください。

つなぐ際のポイント

  • 情報共有の同意: 部下に「あなたの体調が心配だから、専門家である産業医に相談して、働きやすい環境を整えたい」と伝え、情報共有の同意を得ます。
  • 事実の伝達: 産業医には、主観的な思い込みではなく、「遅刻が〇回続いている」「ミスが〇%増えた」といった客観的な事実(観察結果)を伝えます。
  • 役割分担: 医療的な判断は産業医に任せ、管理職は「業務の調整」に専念します。

「私がついていますよ」と寄り添いながらも、組織のネットワークを使って部下を守る姿勢が、管理職自身のメンタルヘルスを守ることにも繋がります。

3. チーム崩壊を防ぐ「職場環境改善」の実践ステップ

個別のケアと並行して行うべきなのが、ストレスの原因そのものを減らす「職場環境改善」です。厚労省の指針では、個人のストレス対処(セルフケア)だけに頼るのではなく、組織としてストレッサーを減らす環境改善が推奨されています。

3-1. 5分でできる!厚労省「職場環境改善のためのヒント集」活用のススメ

「環境改善」といっても、大規模なオフィス改装や高価なシステムの導入は必須ではありません。厚生労働省が提供している無料ツール「職場環境改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)」を活用すれば、お金をかけずに身近なところから改善を始められます。

このチェックリストは、以下の4つの領域から構成されています。

  1. 仕事の進め方: 業務量は適切か、特定の時期に集中していないか。
  2. 作業場・オフィス環境: 照明、騒音、温度は快適か。休憩スペースはあるか。
  3. 職場の人間関係・相互支援: 困ったときに助け合えるか、挨拶はあるか。
  4. 安心できる職場のしくみ: 教育訓練の機会はあるか、評価は公正か。

実践プロセス(参加型職場環境改善)

管理職が一人でチェックするのではなく、部下と一緒にチェックリストを実施し、「自分たちの職場の良いところ」と「改善したいところ」を話し合うワークショップを開催することをお勧めします。所要時間は30分〜1時間程度です。 例えば、「朝のミーティングで業務の優先順位を確認し合う」「備品の置き場所を変えて動線を良くする」といった小さな改善を、部下の提案で決定し実行することで、「自分たちで職場を良くできる」という自己効力感が生まれ、組織へのエンゲージメント(定着意欲)が飛躍的に高まります。

出典元:厚生労働省「職場環境改善のためのヒント集」

3-2. ハラスメントと言われないための「指導」と「配慮」のバランス

職場環境を劇的に悪化させ、連鎖的な離職(ドミノ離職)を招く最大の要因がパワーハラスメントです。しかし、ハラスメントを恐れるあまり、部下のミスを指摘できない「指導放棄」になってしまっては組織は回りません。重要なのは「業務上の必要性」と「言動の適正さ」の境界線を明確に理解することです。

厚生労働省の指針では、パワハラを以下の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動(上司から部下へ、など)
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

「指導」と「パワハラ」の分かれ道

  • NG例(パワハラ):
  • 人格否定: 「お前は無能だ」「やる気がないなら辞めろ」
  • 感情的な攻撃: 大勢の前で怒鳴りつける、机を叩く、物を投げる。
  • 過大な要求: 到底不可能なノルマを課し、未達成を厳しく責める。
  • OK例(適正な指導):
  • 事実への指摘: 「〇〇のミスが発生している。原因はどこにあると思う?」
  • 再発防止の対話: 「次はどうすれば防げるか、一緒に考えよう」
  • ルールの適用: 遅刻に対して就業規則に基づき冷静に注意を与える。

指導を行う際は、「怒り」の感情をぶつけるのではなく、「業務改善」という目的を達成するために、事実に基づいて具体的かつ冷静に伝える技術(アサーション)が求められます。

出典元:人事院「人事院規則10−16(パワーハラスメントの防止等)の運用について」

3-3. 挨拶と感謝で変わる!「働きやすい職場(いきいき職場)」の空気づくり

最もコストがかからず、かつ即効性のある離職防止策は、日常的なコミュニケーションの「質」と「量」を変えることです。厚生労働省の「こころの耳」等の事例でも、挨拶や感謝が飛び交う職場はメンタルヘルス不調者が少ないことが報告されています。

管理職が率先すべき3つの行動

  1. 自分からの挨拶: 部下からの挨拶を待つのではなく、上司から「おはよう!」「お疲れ様」と目を見て声をかけます。これは「あなたの存在を認めている(承認)」という強力なメッセージになります。
  2. 名前を呼ぶ: 「おい」「ちょっと」ではなく、「〇〇さん」と名前を呼んでから要件を伝えます。
  3. 具体的な感謝: 「ありがとう」だけでなく、「〇〇の資料、見やすくて助かったよ」「あの時の対応、素晴らしかったね」と、具体的な行動を称賛・感謝します。これにより、部下は「自分の仕事は見てもらえている」と感じ、仕事へのやりがい(ワーク・エンゲイジメント)を高めます。

こうした小さな積み重ねが、職場の「心理的安全性」を醸成し、部下が「給料が少し高い他社」よりも「自分が大切にされるこの会社」を選ぶ理由になるのです。

出典元:厚生労働省「こころの耳」

4. まとめ:部下を守り、自分も守る。管理職のための持続可能なマネジメント

部下の離職を防ぐために管理職が役割を全うすることは、単に会社のために離職率を下げるだけの活動ではありません。それは、部下のキャリアと人生を守り、そして何より、欠員補充やトラブル対応に追われる管理職自身を守るための「持続可能なマネジメント」そのものです。

厚生労働省のデータと指針が示す重要ポイントを振り返ります。

  1. データの直視: 若手は「労働条件」、女性や新人は「人間関係」で辞める。この事実を受け止め、精神論ではない対策を打つ。
  2. 早期発見(観察): 遅刻、ミス、無口などの「いつもと違う」サインを見逃さず、声をかける。
  3. 傾聴と連携: 否定せずに話を聴き、抱え込まずに人事や産業医へつなぐ。
  4. 環境改善: 挨拶や感謝を欠かさず、話しやすい職場風土を作る。

完璧な上司である必要はありません。まずは明日の朝、部下の目を見て「おはよう」と声をかけ、最近の様子を観察することから始めてみませんか。その一歩が、部下の「辞めたい」を「ここで頑張りたい」に変える大きな転機になるはずです。

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