福利厚生で離職率は下がるのか?若手・リーダー層の「定着」を実現する戦略的投資の仕組み

かつて日本企業を支えた「終身雇用」が崩れつつある今、多くの経営者や人事担当者が「離職率」の高止まりに頭を悩ませています。「せっかく採用した若手がすぐに辞めてしまう」「これからを期待していたリーダー層が流出する」-こうした課題に対し、給与アップ以外の打開策として注目されているのが「福利厚生」の見直しです。
本記事では、厚生労働省の最新データを徹底分析し、離職の真因を解明します。単なるコストではなく、人材定着(リテンション)を実現するための「投資としての福利厚生」について、具体的な戦略を解説します。
1. 序論:人口減少社会における「定着(リテンション)」の戦略的意義
1-1. 構造的転換点を迎えた労働市場
日本の労働市場は、少子高齢化による生産年齢人口の減少に伴い、劇的な「売り手市場」へと転換しました。かつてのように「企業が人を選ぶ」時代は終わり、現在は「求職者が企業を選ぶ」時代です。このパワーバランスの変化により、労働者の流動性は高まり、少しでも条件の良い職場へと人が流れる構造が定着しました。
このような環境下において、離職率の抑制は人事部門だけの課題ではなく、経営の存続に関わる最重要テーマとなっています。厚生労働省の統計データからも、離職が企業の収益性に与える深刻なインパクトが読み取れます。従来の精神論的な引き留めが通用しない今、科学的なアプローチによる定着戦略が求められています。
1-2. 「コスト」から「投資」へ再定義される福利厚生
本稿では、「福利厚生」と「離職率」の相関関係を、厚生労働省の公的データを基に紐解きます。従来、福利厚生は「余裕のある企業が行う法定外の恩恵」と捉えられがちでしたが、現代においては「離職コストを防ぎ、組織の生産性を維持するための防衛策」としての側面が強まっています。
特に、キャリアの初期にある「若手層」と、組織の中核を担う「リーダー層」では、離職に至る心理的要因が異なります。本記事ではこれらの層に対し、どのような福利厚生が「定着」に寄与するのか、その仕組みを体系化して提示します。
2. 離職率改善のカギは「コスト可視化」にあり
2-1. 採用難易度の上昇と1人あたりの採用コスト
福利厚生への投資をためらう理由の多くは「コストがかかる」という点ですが、離職によって発生する損失はそれ以上に甚大です。まず直視すべきは、「代わりの人材を採用するコスト」の高騰です。
厚生労働省の「職業紹介事業報告書」によると、民間職業紹介事業者(人材紹介会社など)を利用して常用求職者(正社員等)を1人採用した場合の手数料平均は、約94万円に達しています。これはあくまで全職種の平均値であり、専門職や管理職であればさらに高額になるケースも少なくありません。
離職率が高い組織では、穴埋めのために常にこの採用コストが発生し続けることになります。これは、利益を生まない「出血」が止まらない状態と同じであり、経営体力を確実に奪っていきます。
出典元:厚生労働省「令和4年度職業紹介事業報告書の集計結果」
2-2. 見えない損失:現場疲弊と負のスパイラル
金銭的なコストに加え、採用活動には膨大な時間的コストがかかります。面接対応、書類選考、入社手続き、そして新人研修 -これらはすべて、本来なら事業成長に使うべき現場社員のリソースを消費します。
「人が辞める」→「現場が忙しくなる」→「採用活動でさらに負荷がかかる」→「疲弊してまた誰かが辞める」。この「離職の負のスパイラル」を断ち切るためには、採用数を増やすことよりも、今いる人材の離職率を下げることの方が、投資対効果(ROI)において遥かに合理的です。
3. 最新データが示す「3年以内離職率」と産業別の実態
3-1. 「大卒3割、高卒3割強」が辞める現実
厚生労働省が2025年10月に公表した最新の「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は以下の通りです。
- 高校卒:37.9%
- 大学卒:33.8%
依然として、新卒入社者の3人に1人以上が3年以内に離職するという「七五三現象」に近い傾向が続いています。特に高校卒人材は地域の現場を支える重要な戦力ですが、その4割近くが早期に離職しており、企業の「育成投資」が回収できていない現状が浮き彫りになっています。
出典元:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
3-2. 産業別離職率に見る「定着」の難易度
離職率は産業によって大きな偏りがあります。同調査データより、離職率が高い主な産業は以下の通りです。
表1:主な産業別 3年以内離職率(令和4年3月卒業者)
| 産業 | 高校卒 | 大学卒 |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 64.7% | 55.4% |
| 生活関連サービス業・娯楽業 | 61.5% | 54.7% |
| 教育・学習支援業 | 53.6% | 44.2% |
| 小売業 | 48.3% | 40.8% |
| 医療・福祉 | 49.2% | 40.8% |
対人サービス業においては、半数以上が3年で辞めてしまうのが実態です。一方で、製造業やインフラ関連(電気・ガス等)は比較的低い水準で推移しています。この差は「給与水準」だけでなく、「休日の取りやすさ」や「福利厚生の充実度」といった労働環境の差が大きく影響していると考えられます。
出典元:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
4. なぜ彼らは辞めるのか?厚労省データが示す退職理由

効果的な福利厚生を導入するには、従業員の「辞める理由」を正確に把握し、その穴を塞ぐ必要があります。厚生労働省の「雇用動向調査」などから、年代別の離職理由を分析します。
4-1. 20代若手の離職理由:「労働条件」と「生活不安」
入社直後の若手社員(20代前半)が離職を決意する最大の要因は、「仕事の内容」よりも「労働条件」にあります。
- 労働時間・休日等の労働条件が悪かった
- 給料等収入が少なかった
- 職場の人間関係が好ましくなかった
データからは、若手が「時給換算のパフォーマンス(タイパ)」や「生活の安定」をシビアに見ていることが分かります。特に20代女性においては「労働条件」を理由にする割合が高く、ワークライフバランスが保てない環境は即座に離職に繋がります。
4-2. リーダー層の離職理由:「将来性」と「評価」の欠如
一方、20代後半から30代のリーダー・中堅層になると、理由は変化します。「仕事の内容に興味を持てない」「能力・実績が正当に評価されない」といった、キャリア形成や承認欲求に関わる理由が増加します。
つまり、若手の離職率を下げるには「生活の安心」を、リーダー層を定着させるには「成長と承認」を提供することが不可欠なのです。
5. 福利厚生で離職率を下げる:ターゲット別・戦略的投資の仕組み
「ハーツバーグの二要因理論」に基づき、不満を解消する「衛生要因」と、満足を高める「動機づけ要因」に分けて、具体的な福利厚生施策を提案します。
5-1. 【若手向け】「辞める理由」を潰す生活支援型福利厚生
若手の離職理由である「金銭的不安」と「労働環境への不満」を解消し、心理的安全性を高める施策です。
- 住宅手当・借上社宅制度(実質手取りの向上)
離職理由の上位である「収入の少なさ」に対し、課税所得を抑えつつ可処分所得を増やす住宅支援は、給与アップ以上に高い定着効果を持ちます。「この会社を辞めると家賃負担が増える」という状況は、強力な引き留め要因(アンカー)となります。 - 奨学金返済支援制度(代理返還)
多くの若手が抱える奨学金返済の負担を企業が肩代わりする制度です。経済的メリットが明確であり、他社との差別化も容易なため、採用力強化と離職防止の両面に即効性があります。 - 法定外の特別休暇(リフレッシュ休暇、バースデー休暇)
「休みが取りにくい」という不満に対し、会社公認で休める制度を作ります。コストをかけずに「従業員の生活を大切にする会社」というメッセージを伝えることができます。
5-2. 【リーダー層向け】「残る理由」を作るキャリア投資型福利厚生
中堅社員に対しては、単なる待遇改善だけでなく、「この会社にいれば成長できる」と感じさせる投資が必要です。
- 自己啓発支援・資格取得補助
業務に関連する資格取得費用やセミナー参加費を補助します。成長意欲の高い社員のエンゲージメントを高めると同時に、企業のスキル底上げにも繋がります。 - 選択制確定拠出年金・資産形成支援
将来への不安を解消するため、iDeCoやNISAなどの資産形成を企業としてバックアップします。金融教育(マネーセミナー)の提供も、従業員の生活設計を支える福利厚生として評価が高まっています。 - 両立支援(育児・介護)の拡充
ライフステージの変化に直面する世代には、法定を上回る育児・介護支援が必須です。時短勤務の柔軟な運用やベビーシッター補助などは、優秀な人材が「辞めざるを得ない」状況を防ぐための命綱となります。
6. 結論:データを武器に「辞めない組織」を作る
福利厚生で離職率は下がるのか? その答えは「イエス」ですが、条件があります。それは、漫然と導入するのではなく、自社の課題(ターゲット層とその離職理由)に合わせて戦略的に設計された場合です。
厚生労働省のデータが示す通り、採用コストは年々上昇し続けています。94万円かけて採用した人材がすぐに辞めてしまう損失を考えれば、その半分のコストを福利厚生に回して定着を図る方が、経営的には遥かに合理的です。
「福利厚生」=「コスト」という古いパラダイムを捨て、「福利厚生」=「人材定着のための戦略的投資」と捉え直すこと。そして、厚生労働省のデータなどをベンチマークにしながら、自社の離職率改善に向けたPDCAを回し続けること。これこそが、人口減少時代を生き抜く企業の生存戦略となるでしょう。
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記事で解説した通り、離職率を改善するためには、やみくもな施策ではなく「自社の離職理由」に基づいた的確な投資が不可欠です。しかし、多くの企業様において、従業員の本当の退職理由や、どの福利厚生が効果的かが見えていないのが実情です。
株式会社MASTの「Teichaku Marker」は、組織の離職リスクを5つの要因からデータ分析し、効果的な定着施策を導き出すツールです。
- 感覚値ではない「データ」による離職要因の特定
- 組織の現状に合わせた具体的な改善プログラムの提示
- 離職率20%→5%への改善、採用コスト750万円削減の実績あり
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