職場のメンタルヘルスのポイント

一人ひとりが持っている力を十分に発揮できる職場は、仕事にやりがいを感じることができ、生き生きと働くことができます。しかし、残念なことにメンタルヘルス不調で休職や退職をする社員は増えています。

令和4年度労働安全衛生調査によると令和3年11月~令和4年10月までにメンタルヘルスの不調で連続1ヵ月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所は13.3%。令和3年の調査では10.1%であったため、増加していることがわかります。

同調査において、仕事に強い不安、悩み、ストレスを感じている回答した労働者は82.2%でした。令和3年調査の53.3%と比較すると、こちらも大幅に増加していることがわかります。ストレスの要因は仕事の量、仕事の失敗・責任の発生、仕事の質が上位を占めていました。

管理職には実務の管理、部下の育成に加えて、チームのメンバーがメンタルヘルスの不調を起こさない職場づくりを行うことも求められています。生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれているほど、誰にでも起こりうる問題であり、他人事ではありません。メンタルヘルスの不調により休職や退職する社員が増えると、業務分担の見直し、交代人員の教育、部署異動、採用など管理職の手間も増えていきます。

では、具体的にどのような点に気をつければよいのでしょうか。

メンタルヘルスとは心の健康

メンタルは「精神的な」という意味であり、ヘルスは「健康」です。つまりメンタルヘルスとは精神的な健康、心の健康状態を指します。誰でも気分が沈んだり、落ち込んだりしますし、多少のストレスを感じながら生活をしています。しかし、強いストレスを継続して受け、リラックスする時間がない状態が続くと、心の不調につながります。

心の不調は、発熱した、お腹を下した、咳が続くといったような体の健康と異なり、自分でも気づきにくく、周囲の人も気づきにくいものです。眠れない、仕事に集中できないといった症状が表れてから、心の不調に気づく人も多く、気づいたときには悪化しているケースも多々あります。悪化した分、回復に時間がかかることが多いため、早めに心の不調に気づくことが肝心です。仕事が原因の心の不調は、うつ病、パニック障害・不安障害が多い傾向です。

職場においては、自分も周囲も心の不調に早く気づいて対処すること、強いストレスが続く環境を作らないことが予防のカギとなります。同時に、メンタルヘルスの不調に陥って休職しても、戻ってこられる環境を作っておくことも重要です。

メンタルヘルス環境が整っている職場はメリットが豊富

精神的にも肉体的にも働きやすい環境が整っている職場は、メンタルヘルス不調に陥る従業員が少なくなります。具体的にみていきましょう。

強いストレスがない職場では、従業員がのびのびと働くことができ、十分に実力を発揮できます。また、仕事にやりがいがある、仲間に支えられている、一緒に働いているという充実感が得られるため、企業への帰属意識も高まります。残業が少なく、休日がしっかりととれる環境は、身体的な健康にも最適です。その結果、休職・退職者が減少。従業員の定着率も上がり、仕事の質の向上、業績アップにつながっていきます。

一方、1人の業務量が多い、職場内で協力体制がない、仕事にやりがいを感じられない、残業が多い、休日が少ない、休日が取れないといった職場の場合、心の不調に陥る従業員が増えます。職場に殺伐とした雰囲気があったり、業務に忙殺されていたりすると、上司や同僚に相談しづらいため、一人で悩みを抱えてしまいがちです。その結果、心の不調に陥り、休職・退職者が増加。ブラック企業と口コミが広がった場合、応募者も減少するでしょう。目の前の業務に追われるだけになり、創造性の高い仕事に時間が割けず、企業は衰退していきます。

メンタルヘルスケア実施の3段階

メンタルヘルスに配慮した職場づくりの重要性について理解したところで、具体的にどのように対策を進めていけばよいのでしょうか。次のような3段階でケアを考えると効果的です。

まず、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ一次予防。心の不調を発生させないことが重要であり、企業・従業員双方の負担が最も少なくなります。次にメンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う二次予防。体の健康と同様に、心の不調も早めに気づいて対処すれば、早く回復する傾向にあります。最後に、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行う三次予防です。心の不調に陥ったとしても、回復したら同じ職場で働けるということは安心感につながりますし、復帰支援を整えておくことで、心の不調の再発を防ぐこともできます。

どの段階も重要であり、事前に準備が必要です。

職場でのメンタルヘルスの向上のための具体的な取り組み

厚生労働省が発表した「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針」に沿って、具体的な取り組みを考えていきましょう。

1.セルフケア
働く人が自らのストレスに気づき、メンタルヘルスの不調を感じ取れるようになることがメンタルヘルスケアの最初の一歩です。セルフケアは予防対処がメインとなり、一次予防に該当します。

職場の施策としては、メンタルヘルスに関するセミナーの開催、eラーニングの受講を促す、定期的なストレスチェックテストの実施などが挙げられます。メンタルヘルスに関する知識があると、本人だけでなく、上司や同僚も心の変化に気づきやすくなります。

2.ラインによるケア
ラインケアは、管理監督者が行うメンタルケアを指します。職場の管理監督者には、従業員の健康を配慮する役割も求められています。日頃から職場環境を把握し、必要に応じて改善を行う、部下からの相談を受けるといった予防の観点だけでなく、異常に気づいたら医療機関など適切な支援につなげることも必要です。

しかし、知識がない状態では部下の異常に気づくことはできませんし、適切な支援方法もわかりません。企業としては管理職向けのメンタルヘルスセミナーの実施、異変に気づくためのチェックリストを提供するなど、管理監督者へのサポートを行います。

管理監督者が行う具体的な業務について詳しくみていきましょう。

職場の中でストレスになるものは多く、仕事の量や質、労働時間、人間関係、ハラスメント、人事評価、人材育成など、さまざまです。さらに何に強いストレスを感じ、心の不調を引き起こしやすくなるかは、人によって異なります。

成長のために、多少のストレスや負荷は必要です。少し背伸びした業務を与えることで、成長を促してきたと自負する方も多いでしょう。しかし、高すぎる負荷は心身のバランスを崩す恐れがあります。そのため管理職は、部下にとって高負荷になるものは何かを見極め、負担を調整することが求められます。

負荷を見極めるためには、日頃のコミュニケーションが欠かせません。面談を定期的に行って信頼関係を築いておきましょう。人手や予算の関係上、職場環境をすぐに変えることはできなくても、悩みを聞いてもらえるだけで人の心は軽くなるものです。管理職には傾聴の姿勢が大切です。

職場復帰の支援も管理職の重要な仕事のひとつです。メンタルヘルスの治療には、さまざまな方法がありますが、休むことも重要です。復帰後、スムーズに仕事に戻れるよう環境を整備する、専門家と連携して仕事内容を見直す、労働環境の配慮を行うことなどが求められます。

3.企業全体でメンタルヘルス対策の企画・立案
人事労務管理スタッフのほか、産業医、保健師などが中心となって行う企業全体のメンタルヘルスケアです。企業全体でメンタルヘルスケアを重視しているという姿勢を示すことは重要です。心の不調にならないよう企業が配慮してくれているというのは、予防にもつながりますし、安心して働ける企業と受け止められるため、イメージもアップします。

具体的な対策についてみていきましょう。

部署の上司と適切な関係が築けており、相談ができる環境ならよいですが、上司が原因の場合や相性が合わない場合、社内の部署もしくは外部にメンタルヘルスケアの相談窓口が設置してあれば、相談がしやすくなります。

また、定期的にストレスチェックを行い、社内全体の傾向を分析、改善案を検討していくことで、メンタルヘルス施策がうまくいっているかを判断できます。改善を繰り返すことで、よりメンタルヘルスに配慮された職場が形成されていきます。

メンタルヘルス休暇の導入、残業の削減、有給休暇などの休暇を取りやすくする施策、退勤後、翌日の出社まで一定時間以上の休息をとる必要があるインターバル制度の導入など、社内の働き方改革も必要です。個人によって異なりますが、職場復帰をする際に短時間勤務ができるとスムーズに仕事に復帰できるケースも増えています。

BtoCの企業では、カスタマーハラスメントから従業員を守る姿勢が求められるなど、社内だけでなく、社外の取引先やお客様との関係も考える必要があります。

ストレスチェックの結果や相談内容は、とてもセンシティブなものです。個人情報保護の観点を忘れないようにしてください。併せて、メンタルヘルスについてオープンに語れる環境を企業全体で作っていくことも必要です。たとえば、積極的にメンタルヘルスに関する情報提供を行ったり、外部機関と連携があることを周知したりすることが求められます。すると、相談へのハードルが下がるため、早い段階で心の不調に気づきやすくなります。

4.専門機関の活用
企業内でメンタルヘルスの知識を深めたり、企業にあった制度を作成したりするのは時間もかかりますし、担当者の負担も大きくなります。専門機関を有効活用し、早く、効率的に環境を整えましょう。メンタルヘルス専門家による研修やアドバイスを積極的に活用することで、カスタマイズされたメンタルヘルスケアプランを作成できます。環境を整えるために動いた人がメンタルヘルスの不調に陥ってしまうようでは、元も子もありません。

中小企業等で産業医がいない場合は、外部の医療機関と積極的な連携が欠かせません。保健師などと契約している中小企業も増えています。

職場環境改善のための5つのステップ

メンタルヘルスに配慮された職場づくりは、ビジネス同様、PDCAサイクルの視点を取り入れましょう。

職場環境の現状調査
まず、実態を把握します。社内でどのようなトラブルが起きているか、何が高負荷となっているか、改善すべき点はどこかを見極めることで、最適なプランができあがります。実態を正確に把握しないと、的外れな計画となってしまい、時間、費用、気力・体力の無駄遣いになってしまいます。

組織作り
社内で衛生委員会を立ち上げ、リーダーを選びます。実務を行いながら兼任、もしくは専任など対応は企業によってさまざまです。

計画の立案(Plan)
調査結果をもとに、改善案を作成します。調査が適切に行われていれば、比較的スムーズに計画を立案できるでしょう。

対策の実施(Do)
計画を実行に移します。部署や社員に協力してもらうことがあれば、お願いしておきましょう。実行してみて不都合が出てきた場合は、修正や調整を行います。

・結果分析、評価(Check)
効果を分析します。内容によっては、すぐに結果がでるとは限りません。長期的な視点で分析をすることも重要です。

・次の施策の立案(Action)
結果分析から見えてきたことを参考に、次の施策を立案します。昨今はビジネスの変化が激しいため、新たな課題が登場することも多いでしょう。改めて現状を分析して、施策に活かすといった視点も重要です。

メンタルヘルスは企業にとって重要課題、MASTが支援します

業務の心理的負荷を原因とする精神障害等による労災申請件数は増加傾向です。従業員保護の観点、企業経営の観点からも、メンタルヘルスケアに力を入れていく必要があります。

業種や職種の特性によって注力すべき点、優先順位も異なるため、担当者が自己学習しただけでは、なかなかうまくいきません。ここは、知見と実績のある外部機関に頼りましょう。

MASTではこれまでの知見を活かし、カスタマイズした研修を提供します。まずは丁寧なヒアリングからスタートしますので、悩みや不安をお聞かせください。まとまっていなくても構いません。対話を通して、課題を一緒になって明確にしていきます。

また、実践力を高めるため双方向の視点を大事にした研修を展開し、好評を得ています。お気軽にお気軽にご相談ください。


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